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男女でこうも違った「コロナ自宅療養」の収入影響

2022/9/9

東洋経済オンライン

新型コロナウイルスの自宅療養者とその家族に何が起きているのかを知るべく、2022年3月17~28日にウェブ調査を実施した。対象となったのは、自分もしくは同居家族がコロナに感染して自宅療養者となった首都圏在住の15歳以上で、1065人(女性543人、男性522人)から有効回答があった。 結果報告の第2回では、自宅療養の経済的側面や仕事との関係に目を向けてみたい。 第1回目:日本の家族が「コロナ自宅療養」で陥る壮絶事態(8月27日配信)(外部サイトに遷移します)

年収400万円未満の世帯は「4割」が収入減

収入の変化をぜひ尋ねてほしいという自宅療養経験者からの提案を受け、「あなたもしくは同居されている方の自宅療養の後、家計の収入や支出に変化はありましたか」という質問を設けた。その結果が図1である。世帯収入階層別の違いがあまりにはっきり示された。

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/615111

高収入の世帯では影響が小さいが、年収400万円未満の世帯のうち40%以上の世帯が収入減を報告している。コロナと収入というと、休業要請を受けた飲食店などにばかり報道が集中したが、コロナに感染したり濃厚接触者になったりして自宅療養や自宅待機を求められた人たちも収入を減らしている。しかも、もともと収入の低い人たちほど減らしているとは深刻だ。いったいどうしてなのだろうか。

自宅療養者となった人(世帯内に複数いる場合はもっとも症状の重かった人)の仕事や活動について尋ねた。回答に占める割合は、会社員(正社員)が35%、学生が19%、パート・アルバイト(民間)が7%、医師・医療関係者が5%、主婦専業が4%、無職も4%だった。あとはそれより少ない。 仕事を持っている人が仕事を休んだ期間は、10日(24%)、14日(16%)、7日(10%)に山ができ、定められた期間を守っていることがうかがわれる。 他方、20日以上の長期間にわたり休んだ人たちも10人に1人ほどいる。そのうち後遺症などで回復に時間がかかったケースが58%あり、やはり楽観できない病気だ。 また、濃厚接触者としての待機期間中に感染したため(12%)、他の自宅療養者の看病や世話をするため(5%)、休園・休校した子どもの世話をするため(5%)、長期間の休業となった人たちもいる。自身の感染に家族のケアが重なると、長期にわたって仕事に影響が出てしまう。

職種や勤め先によりまったく異なる休業中の処遇

では、休業期間の扱いや給与はどうなっているだろうか。結果は実にさまざまだった。 「自宅待機命令により有給の自宅勤務となった」(26%)、「年次有給休暇を取得した」(26%)、「病気休暇を取得した(給与は全額支給)」(19%)、「病気休暇を取得した(給与は減額して支給)」(6%)、「病気休暇を取得した(無給)」(5%)、「欠勤等の無給休業となった」(10%)、「健康保険の傷病手当金を受け取った」(4%)、「新型コロナの流行のため休業させられ、休業手当を受け取った」(3%)、「新型コロナの流行のため休業させられ、無給だった」(5%)、「新型コロナの流行のため休業させられ、無給だったが、国から休業支援金を受け取った」(1%)などがあった。 いずれの扱いになるのかは職種や勤め先の対応によるため、10%以上の人が選択した4つの場合について、職業別のグラフにしたのが図2である。

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/615111 (注)合計が100%を超えているのは、複数回答が可能だから。

「自宅待機命令」、「年次有給休暇」、「病気休暇(全額支給)」という3つの場合には、給与は全額支給される。ただし貴重な年次有給休暇を病気や自宅待機で使ってしまうのが残念だったと、自由回答に何件も意見が寄せられた。 「病気休暇(sick leave, sick pay)」は、業務と因果関係のない病気によって就業できなくなった従業員に対して、心身が回復するまで休暇を与える制度である。公務員にとっては法定休暇だが、民間企業にとっては義務ではないので企業全体の23%が導入しているにとどまり、有給か無給か、雇用形態による適用の可否なども各企業の判断に任されている。

有給を使わざるをえなかった非正規社員

図2には、職業による違いが明瞭に示された。公務員と教職員(一部は公務員だろう)の多くは「病気休暇」を取得している。民間会社の正社員では「自宅待機命令」と「年次有給休暇」が半々だ。しかし会社員でも契約社員や派遣社員の多くは「年次有給休暇」を使わされている。 それに対して、民間のパート・アルバイトでは「欠勤等の無給休業」が多数を占める。すなわちいわゆる正規雇用か非正規雇用かによって扱いが異なることが明らかである。非正規雇用の人たちは安心して病気療養ができるようにする制度からも排除されている。特に今回は感染症のため、社会や会社を守るために出勤を止められているにもかかわらずだ。 では、自宅療養者のケアをした人たちはどうだろうか。「自宅療養者の看病や世話にもっとも中心的役割を果たした方」の職業を男女別に集計してみると、男性の45%が正社員であるのに対し、女性は正社員、パート・アルバイト、主婦専業に大きく分かれる(図3)。

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/615111

ケアをしていた期間、仕事をどうしていたのかを尋ねると(図4)、テレワークで仕事をしたのは男性が女性の1.5倍以上なのに対し、仕事を休んだのは女性のほうが多い。出勤して仕事をした人たちが男女とも10%以上いるのは意外だった。

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/615111 (注)合計が100%を超えているのは、複数回答が可能だから。以下の図も同様。

無給休業となった女性が男性の倍

仕事を休んだ場合、その期間の扱いや給与はどうなっただろう(図5)。「自宅待機命令により有給の自宅勤務となった」と「年次有給休暇を取得した」の割合は男性が女性より多い。 他方、「欠勤等の無給休業となった」は女性が男性の倍近い割合を示す。その他、「コロナの子どもの世話をするための特別有給休暇を取得した」という、今回特別に設けられた制度を利用したのも女性のほうが多い。

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/615111

こうした男女の違いは、男女の就いている職業の違いと関係していると推定される。

ケアをしていた期間、仕事をどうしていたのかを職業別に集計すると(図6)、会社員では正社員も契約・派遣社員もテレワークと休業が同じくらいなのに対して、パート・アルバイトでは圧倒的多数が休業している。

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/615111

医師・医療関係者と介護関係者は休業も多いが、出勤して仕事をした人たちも20~30%いるのが目を引く。濃厚接触者のエッセンシャルワーカーの自宅待機期間短縮措置により、家庭内隔離等の適切な感染予防策を講じながら業務につかざるをえなかったことが推察される。

ケアを担った人が直面する「無給休業」

看病や世話のために仕事を休んだ期間の扱いや給与もまた、職業によって異なる(図7)。

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/615111

正社員は「自宅待機命令」と「年次有給休暇」が同じくらいだが、契約・派遣社員は「年次有給休暇」がはるかに多い。これらがいずれも有給なのに対して、パート・アルバイトは「欠勤等の無給休業」がもっとも多い。

図3で見たようにケア役割を担った女性の17%はパート・アルバイトの職に就いており、彼女たちの多くはテレワークもできずに休業して、しかも欠勤扱い等で無給だったということだ。 現在について尋ねると、自宅療養者本人は91%がもとの仕事に復帰しているのに対し、そのケアをした人は71%しか復帰していない。

自宅療養に不可欠な役割が直面する理不尽

療養はそれ自体が社会への貢献といえる。感染拡大を防ぎつつ、回復してまた働けるように努力しているのだから。また療養する人は多くの場合、ケアする人を必要とする。素人ながら懸命に家族を看護して医療が回るように貢献しているのはその人たちなのである。 しかし療養者とそのケアをしている人たちが、仕事と収入を失わずに安心してその期間を過ごせるかどうかは、職業によって大きく左右される。非正規など不安定な雇用の人たちは、ここでも安心できる仕組みから排除されていることが浮彫りになった。 この格差の構造はこれまでも存在したが、誰がいつ病気になるかわからないウィズコロナの時代は、この格差をさらに拡大してしまう。 とりわけケアを担う人、特に女性たちは、それに見合う支払いを得られないどころか、しばしば収入を失っているという理不尽に目を向けなければいけない。

有給の病気休暇を雇用形態にかかわらず取得できるようにすることが急務である。特に感染症の場合は、しかも新型コロナの感染症法上の位置づけを2類から5類に引き下げて季節性インフルエンザと同等にするなら、感染者が経済的に心配なく自主的に休業できるようにすることが、職場のクラスター化を防ぐためにぜひとも必要だろう。 また病気休暇と並んで、有給の「ケア休暇」を誰もがとれるようにすべきだ。現在は子どもの看護休暇と介護休暇しかないが、誰を看護しても平等に取得できなければおかしい。主婦専業の人たちも考えると、休業に関係ないケア手当の支給も検討すべきだろう。 療養とケアが日常化しても回る社会にするために、療養とケアの価値を見直して、ケアする人に矛盾をしわ寄せしない仕組みを作らねばならない。

*本調査は京都大学社会科学統合研究教育ユニット異分野融合プロジェクトの助成をいただいて実施したものであり、共同研究者の木下彩栄教授(京都大学大学院医学研究科)の他、塩見美抄准教授(京都大学医学研究科)、村上あかね准教授(桃山学院大学社会学部)、岡本朝也講師(関西学院大学他)、王紫璇さん(京都大学大学院総合生存学館)、谷河杏介さん(京都大学医学研究科)のご協力をいただいた。

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