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「だまし絵」が子の発想力を育むのに役立つ理由

2022/9/26

東洋経済オンライン

最近、ビジネスシーンから教育の現場に至るまで「アート思考」というワードを耳にする機会が増えている。目まぐるしく進化し続ける現代において、今まで主流だった論理的思考ではなく、常識にとらわれない考え方や柔軟な発想力が求められる時代となってきていることも一要因となっているようだ。 子ども向けのアート思考を育む絵本『くるっと だーれ?(※外部サイトに遷移します) 』が登場した。改めてアート思考とは何なのか、なぜ今そのような思考が求められているのか、アート思考はどのように育まれるのかについて、多摩美術大学特任准教授で、子どもアートプロジェクトにも携わる佐宗邦威氏が解説する。

自分の考えを具体化し、表現する力が大切な時代に

「アート思考が大切」「アート思考を育もう」。そんな言葉をメディアで目にするシーンが増え、注目されている「アート思考」。さまざまな方法論が提示されている一方で、合意された明確な定義はまだないのではないかと思います。 アート的な思考については、私自身は「ビジョン思考」と呼んでいます。妄想からスタートして自分の世界観を知覚しながら具体化し、さらに自分なりに組み替え、表現するというサイクルです。 アーティスト的なサイクルにも思えますが、これはアーティストに限らず、起業家や開発者など、「今までにはない仕組みを構想する人」も最初に似たようなプロセスを通るものだと思います。 同じクリエイティブな思考法に「デザイン思考」がありますが、デザイン思考は、人の課題からスタートし、存在しない解を作っていく問題解決型のゼロイチ思考法です。それに対して、自分の動機やビジョンからスタートし、新たなものを創造していくのが「アート思考」と呼べるでしょう。

今までは左脳的な論理的思考が主流で、最初から正解を求めるようなプロジェクトがビジネスの世界ではメインストリームでした。 しかし、今の時代は僕なりに表現するなら、「1人ひとりがつながってしまい、相互に影響を与え合うことで予測もつかない変化が生まれる世界」に投げ込まれている状態だと思うのです。そんな社会においては論理的思考ではうまく立ち回れないことも多く出てきています。 かつては「それはあなた個人の考えだろう」と足蹴にされていたアイディアこそが、結果的には世の中を動かし、変えるようなエネルギーを持っているケースが珍しくなくなってきています。 洞察力のある人たちは「表現したもの勝ち」という潮流に現代社会がシフトし始めたことに気づき始めたからこそ、「アート的なものの見方」が今ものすごいスピードで見直されているのです。

アート思考を育てるのに絵本が絶好のツールなわけ

アート思考において、私がもう1つ可能性を感じているのが教育の分野です。私たち大人は、言語として概念化したものをベースにふだん活動をしていますが、子どもの場合は自分の体感や体験、イメージなどで概念を作っています。 ですから、前提となる概念がない状態で物事を認知できる絵本は、アート思考を育てるうえで自然なフォーマットだということができると思います。 お子さんのいる方なら、絵本やアートブックを親子で一緒にながめ、お互いに感じたことを話し合う機会を作ることをおすすめします。私は読後の子どもとの会話を重視していて、読んだ本について「何がおもしろかった?」など、問いかけをするようにしています。 『くるっと だーれ?』のように、逆さまにすると違う絵があらわれる、だまし絵の絵本を親子で一緒に楽しむこともイメージ脳(右脳)を育むのに有効なアプローチです。

参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/615525 出所:『くるっと だーれ?』
参照元:https://toyokeizai.net/articles/-/615525 出所:『くるっと だーれ?』

アートを勉強する際に、ピカソなどの作品を逆さまにして、そのまま模写していくエクササイズがあります。逆さにすると一見、意味がない線の集まりに見えるので、ありのまま、線の集まりとしてその物体を見るようになります。 実はそれがイメージ脳のモノの見方になっているんです。その形をじっと観察し、さらにひとつの形から複数の意味を見出すことで複眼的な視点を持てるようになるのです。

生後1~2カ月の子の「ウィークリーミュージアム」

そのほかにも、アート思考を育むのに有効な手段として“ぬり絵をする”“有名な絵を見せる”といったものもあります。 前者は私も実践しているのですが、有名なアート作品などを、本当に簡単でいいので親がスケッチして、子どもに「色を塗ってみよう」と渡してみてください。「パパやママと一緒に完成させるぬり絵」ということで、子どもの反応が市販のぬり絵とは段違いにいいのです。 また、後者は友人である「脳×教育×IT」をテーマにしたベンチャーを立ち上げた脳神経科学者の青砥瑞人氏が生後1~2カ月からお子さんのためにやっていた「ウィークリーミュージアム」のこと。1週間ごとに「クリムト展」「ピカソ展」とテーマを決めて、プリントした絵画作品をベビーベッドの周りに貼り、展示していたそうです。 感性を育むには、非言語的なものにどれだけ触れているかが重要になるそうで、お子さんは楽しんで見ていたとおっしゃっていました。手軽に真似ができますし、おもしろいアイディアですよね。

創造力を育むうえで、私たち大人が注意すべき点もあります。子どもが描いた絵に「何か」を見出そうとすることです。 「それはハートかな?」と聞くと「大根だよ」と大人が想像だにしなかった回答が返ってきたりすることがありますよね。大人が決めつけずに、あんな風にもこんな風にも見えるねとお子さんと会話することを楽しんでみてください。 時として、見たこともない絵を描くこともあるかもしれませんが、そのような時期は限られています。そんな時こそ、イマジネーションや想像力が発揮されている場面なのです。 「どんなお話なの?」「こういうところかわいいね」と子どもの世界観に寄り添ってください。それは子どもの世界を尊重することにつながり、興味を持ってもらえているとお子さんの喜びや自信へとつながっていくと思います。

ノーベル賞受賞者にはアートに親しむ人が多い

小さいころからアートに多く触れた子がビジネス的に成功しているという研究結果はまだ目にしたことがありませんが、アートに親しむことで、ノーベル賞を受賞する確率があがることは検証されています。 アメリカ・ミシガン州立大学のロバート・ルート=バーンスタイン教授によれば、ノーベル賞受賞者には、アート関連の趣味を持つ人がほぼ3倍いたという研究結果が報告されています。ルート=バーンスタイン教授らは、彼らの芸術的創造性が実験能力を高め、研究にもプラスにはたらくのではないかと結論づけていました。

個人的には、新しいものの見方や独自性のある見方をアートに親しむことにより養っているのではないかと解釈しています。 小学校低学年くらいまでは自由に表現ができていた子どもたち。ところが高学年に差しかかると自我の高まりや社会性を帯びることで、自分と向き合う機会が減り、創造性を育む力を急速に失っていきます。 親であれば、わが子には創造的な子どもに育ってほしいと願う人が多いはずです。絵本のような身近なツールを使って、幼児期から自然とアート思考を育む環境を作っていきたいものです。

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