自分を成長させたい人ほど「不安」に
まず図を見てほしい。3角形の頂点――変化を妨げる「不安」、不安を克服するのに必要な「勇気」、そして変化を起こすときに見せなければならない「弱さ」――この3点を、感情は移行することがわかっている。 (外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) 自分を成長させたいと思う人ほど、失敗したときのことを考えて「不安」にとどまる傾向にある。だがそのままでは、不安が蓄積し、恐怖で動けなくなる。この心理的な穴から這い出すどころか、穴の深い部分にさらに沈み込んでしまうのだ。 ある時点で穴に沈み込むのをどうにか止めて、這い上がらなければならない。そのためには、「勇気」を持って自分の「弱さ」を認め、学ぶ姿勢を示すことが求められる。
自分の殻を破って自己成長にいたるには、自分が弱く、もろくなる状況に身を置く必要があるとわかっている。 次の図を見てほしい。仕事に対する臨み方4つが示され、自己成長のルートを視覚化した。
図の左側にあるように、仕事に対して「望ましくないことをそつなく無難にこなす」と、「望ましくないことをぎこちなくこなす」が選べる。 また右側「望ましいことを見事にこなす」と、「格好悪くてもいいから望ましいことをする」が選べる。 ほとんどの人は、右上のスペース「成長」を目指すべきだと考える。問題は、「望ましいことを見事にこなす」段階にどうすればいたれるかということだ。 図で示すように、右上の「成長」にいたるには、その下の「勇気と弱さ」のスペースを通過しなければならない。何かを「見事にこなす」には、何かを「格好悪くてもいいから」しなければいけないのだ。
「前の行動」へのリバウンド
「恰好悪くてもいいから望ましいことをする」のが簡単なわけではない。 人は「自分のイメージ」を壊すことには代償がともなうと認識している。なので、これまでの自分を変えて、新しいことを試みるとなると、どうしても二の足を踏んでしまう。これは、正常な反応といえる。 仕事を始めたばかりの人も、経営者として広く名を知られる人も同じで、ほとんどの人は新しく試みることに抵抗を感じる。恰好よくない、自信がなさそうだと思われたくない……。 その結果、リスクをとって成長し、革新的なことを試みようとしない。これまでしてきたことにしがみつこうとする。 私たちは、頭のなかでいくら変わろうと思っても、「これまでしてきたようにしたい」とどこかで思ってしまう。バンジージャンプのロープが腰に巻き付けられているようなもので、以前の行動に習慣的に引き戻されてしまうのだ。
自分も同じだ、なかなか一歩が踏み出せないと思ったかもしれないが、この心理特性を認識することが自己成長の第一歩にほかならない。現状維持にしがみつく心理を手放し、行動を起こすための「明確な指針」が見えてくる。 次の図を見てほしい。前述の2つの図形を重ねたものだ。
「望ましくないことを無難にこなす」から、「恰好悪くてもいいから望ましいことをする」への移行は、不安から勇気に移ることにほかならない。 「不安」を押し殺してリスクを冒す勇気がなければ、右下の「恰好悪くてもいいから望ましいことをする」スペースにはいたれないのだ。 そこにたどり着いたら、今度は自分の弱さを認め、わからないものは「わからない」と正直に白状し、新しいスキルと知識の習得を心がける。その結果として、「望ましいことを見事に行う」右上のスペースに昇華できる。 右上の成長にいたるためには、今、自分がうまくできている仕事やルーティンワークから離れて「恰好悪くても望ましいことをする」必要がある。これが、自己成長するために誰もが通らねばならない通過点なのである。
下手でも「踏み出した人」を、人は讃える
実例を挙げよう。モーリス・チークスは1980年代を代表するプロバスケットボール・プレイヤーだ。引退後は指導者に転身し、数々のチームで手腕をふるった。 だが、チークスの名を聞いて人々が思い浮かべるのは、トレイルブレイザーズのヘッドコーチを務めていた2003年4月のダラス・マーベリックスとの一戦の前、セレモニーで示した粋な行動だ。 トレイルブレイザーズの本拠地ローズ・ガーデン・アリーナでは、試合前にアメリカ国歌斉唱のセレモニーが執り行われようとしていた。 国歌斉唱の大役を任されたのは、地元オレゴン出身の13歳ナタリー・ギルバート。 ギルバートは緊張のピークにあった。突然歌詞が出てこなくなってしまったのだ。歌えなくなり、涙ぐんでしまった。
会場は静まりかえる。みんなどうしていいかわからない。誰も助けに行けない。突然どこからともなくチークスが現れて、狼狽したギルバートに近づく。そして、一緒に国歌を歌い始めた。 ギルバートは落ち着きを取り戻し、また歌い出した。チークスはギルバートの肩をたたいて励ましながら、傍らでずっと一緒に歌った。 観衆も大声で歌い出す。カメラは相手チームのヘッドコーチをとらえる。彼も歌っていた。審判も歌っている。アリーナ中のすべての人が、ギルバートが歌えるように励ましている。見事に歌い終えると、チークスはギルバートを抱きしめ、すぐに選手とスタッフの元に戻った。
成功にいたる道に必ずある「迂回」
チークスはお世辞にも歌はうまくなかった。音程はメチャクチャだった。でも、チークスは歌がうまいかどうか、気にする人がいただろうか?
チークスはギルバートに向かって歩きながら、間違いなく不安につつまれていた。だが勇気を持って歌いだし、自分をさらけ出した。そして、自分の弱さを乗り越えた。 状況が違っても、誰もがモーリス・チークスと同じことができる。勇気を出して「恰好悪くてもいいから望ましいこと」をすることで、「望ましいことを見事にこなす」境地への道を歩めるのだ。 前掲した図を見ればわかるように、成功にいたる道はまっすぐではない。予期しない方向に迂回しなければならない。だが、それによってさらに大きな仕事ができるし、自分をさらに高められるはずだ。
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